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(Side:弟)
雅人の言葉に笑いながら、何て兄は残酷なんだろうと思った。
こんなに好きで好きでたまんないのに、俺との生活を楽しみたいだなんて、そんな優しい言葉で俺を拒絶して。
兄弟なのだと思い知る。
兄弟だから許される関係なのだと。
家に帰れば雅人がいて、俺の話を聞いては笑って、冗談を言い合って。他人では絶対得られない距離。
家族で、兄弟だからこその距離。
残酷で、切ない距離。
「はは、でもまー…」
「なに」
「俺も、……まだもう少し雅人との生活楽しみたいや」
「……………そう」
本当にそう思うよ。
雅人が俺という弟とのこの生活を望んで、それを第一にしてくれるのなら…、今のままでいい。
今のままがいい。
近くて、でも触れなくて。
だけど他人よりも、他の知らない誰かよりも雅人の心にあるのが「弟との生活」ならば。
俺もそれがいい。
パラリと、雅人が夕刊をめくる音が…
痛くて、愛しかった。
END.
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