12人が本棚に入れています
本棚に追加
2幕
ようやく、視界が明くなった。森を抜けるみたいだ。
「おい、アキラ、ハヤテ、原っぱだ!」
先行していたガイが少し下のほうから声を張る。
それを聞いて、アキラは胸を撫で下ろした。
森の樹は紅葉の兆しを見せてはいるものの、幾重にも覆われた葉のお陰で、日の光は暗い。
自分がどこを歩いているのか分からない不安と相まって、閉塞感は無視出来ないほどに膨らんでいた。
「良かった、森を抜けたってことは助かるよな?」
緊張が切れて緩んだ顔で、隣を歩くハヤテに言う。
「ええ、きっと。しかし助かりました、山道を歩き続けるのも嫌になってきたところです。」
小柄なハヤテは縦横に張り巡らされた巨木の根に悪戦苦闘していた。
重力を感じさせないほどの、ダイナミックな位置取りをしている巨大な根は、どこかおとぎ話の世界を連想させる。
空気から養分を吸っているのだ。と言われても不思議はない。
「早く合流したいなあ。オリエンテーションで遭難なんて、笑えないよほんと。みんな心配してるだろうな。」
かるい気持ちでハヤテに話しかけた。
アキラの、ハヤテやガイに対する苦手意識は日常に限っての事で、この非常事態では、そんな事を考えている余裕は無い。
おまけに、この二人はいまや、アキラの命の恩人なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!