永久に夢を観よう

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時が止まったかのように、静かな時間が過ぎた。 王子は魔女の醜悪な姿を見つめ、魔女は王子の美麗な姿を見つめ返した。 醜いものと美しい者が同じ空間に存在し、静かに対峙していている様子を、もし第三者が見ていたとすれば、その目にはどう映ったことだろう。 紅色に燃える暖炉の炎だけが、時の流れに揺られていた。 そしてそれは、王子が長く憂鬱な息をつき終わるまでの、極めて短い時間だった。 古城の入り口に誰かの声が響きわたり、静寂を打ち壊した。 声の数は次第に増え、粗暴な足音が徐々に王子と魔女が居る部屋へと近づいて来る。 国王の遣いの者達が、王子を探しに来たのだろう。 それは、王子に残された時間が、あと僅かであることを告げていた。 王子は部屋に唯一ある出入り口へと涼やかな眼差しを向ける。 古びた木製のドアの向こうには、王子の名を呼ぶ大勢の人間の声がすぐ近くまで迫っていた。 しかし、王子は焦ることはなかった。 薬を受け取り、魔女を殺してしまえば、もうここに用はないのである。 王子は引き締まった凛々しい表情で、魔女へと向き直った。 「サーベルは抜かないのですか?」 魔女は朱色の三つ目をギョロつかせてそう言うと、醜く顔を歪ませて王子に微笑みかけた。
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