永久に夢を観よう

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魔女は薄汚れた黒いローブを身にまとい、フードを深くかぶることで醜悪な素顔を隠していた。 その背は酷く折れ曲がっており、木の上から下界を見下ろすカラスのような、魔女の卑しさを表している。 ローブの袖の先からは小枝のように節くれだった血色の悪い指が覗いており、魔女はその異形の手の平で百科事典のように分厚い本を支えている。 魔女の視線は開いた本に落ちたままで、ちらりとも王子を見やる気配はない。 古びた木製の床には魔女の暗い影が亡霊のように怪しく揺れている。 静謐(セイヒツ)な部屋にはクツクツと耳障りな笑い声が響き、それが魔女特有のいやらしい魔性の気配を漂わせていた。 昔々、およそ数百年ほど前に、悪魔に魂を売った娘がいた。 それがこの魔女なのだそうだ。 嘘を吐いては人間が悩み苦しむ様子を楽しむ。 気まぐれを起こせば人の命だろうと何だろうと強引に奪っていく。 残虐な魔女。 悪魔から与えられた強大な魔力と膨大な知識を悪用し、未だに世界中を翻弄し続けている。 指一本で容易に国一つを潰すことが出来る魔女に、逆らう者など誰もいない。 王子はこの魔女が嫌いだった。
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