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魔女の笑いが収まるのを待って、王子は口を開き、冷徹に言い放った。
「薬が欲しい。」
彼の凛々しい声は、闇を切り裂く光のように鋭く響いた。
王子には一刻も早くある薬を手に入れなければならない事情があったのだ。
そしてその薬は、必ずこの魔女から手渡された物でなければならなかったのである。
そうでなければ、彼は父である国王の言いつけを破ってまで、こんな所へはやって来なかっただろう。
王子が欲しているその薬とは…。
「永遠に夢を見せる薬だ。」
彼は美しい眉をひそめ、低い声で厳粛に言葉を続けた。
『永遠に夢を見続ける』ということは勿論『永遠に目覚めない』という意味だ。
将来一国を担う者として、命は重いと洗脳のごとく刷り込まれて育った彼が、誰かを殺したいなどと口にしたのは、これが生まれて初めてのことだった。
王子の端正な顔には苦悩が浮かび、哀愁の影が落ちる。
「はぁ…。」
魔女はまるで下らない世間話を聞き流すように、王子の話に気のない相槌を打った。
王子の様子など気にとめる素振りもない。
快楽の為に人を殺すような魔女だ。
この邪悪な魔女にとってみれば、命のやり取りなど日常茶飯事なのである。
人を殺すと宣言したしたところで、そんな魔女が驚く訳もない。
冷めた反応も、当然といえば当然のものだった。
魔女は昆虫の脚を連想させる不気味なほど細長い指で、何事も無かったかのように本のページを1枚めくった。
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