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魔女の横柄な態度に、王子は苛立ち、奥歯を噛み締める。
ただ魔女と同じ部屋の空気を吸っているだけでも胸が苦しくなってくるのだ。
その上、会話さえもまともに成立していないこの状況に対して、彼は殺意さえ覚えていた。
湧き上がる怒りを抑えるべく、王子は外套の下に隠してあるサーベルの柄を、たおやかな指で撫でた。
魔女は相変わらず本に視線を落としたままだったが、王子の苛立ちを敏感に感じ取ったらしく、肩を震わせて低い声で小さく笑った。
他人の不幸は蜜の味。
魔女は蛇のように先の割れた舌で舌なめずりし、淫らに王子の蜜を味わった。
汚らしく涎をすする不快な音が、王子の耳に絡みつく。
(下劣な魔女が…!)
埃まみれの床を力強く踏み鳴らし、王子はサーベルの柄を握り締める。
その表情は聡明で優雅な『王子』として民衆から慕われた、穏やかな笑顔とはあまりにもかけ離れていた。
彼の鋭い眼光はゆらゆらと揺れる赤い炎により妖しく輝いており、怒りで紅潮した頬に浮かぶ憎悪の色は、彼が本来持っている凄艶(セイエン)さを露わにさせていたのだ。
そして、無言の圧力が、静寂を支配する。
やがて魔女は、枯れ葉が擦れ合うような掠れ声で、神妙に短く応えた。
「御座います。」
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