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魔女は読んでいた本を勢い良く閉じた。
本はページの間からぱたりと鈍い音を出すと、紫色の煙と共に溶けるようにその姿形を変えていった。
気がつけば、本はひとつの飴玉となり、魔女の皺だらけの手のひらに収まっていた。
「これをどうぞ。」
魔女は人間を嘲笑う地霊のように低い声で言いながら、飴玉を王子に向かって差し出した。
どうやら魔女の干からびた手のひらに乗せられている紅色の飴玉が、彼が頼んだ薬のようだった。
薬を差し出す魔女の手からは、一切の迷いが感じ取れない。
それを疑問に思い、王子は薬を受け取ることを躊躇した。
(私が誰にこれを与えようとしているのか、この魔女にはわからないのだろうか?)
そう考えて、すぐに打ち消した。
椅子を揺らしている魔女の肩が、嘲笑を押し殺そうと震えていることに気がついたからだ。
(この魔女はわかっている。だからこそ何も聞かないし、今も声を殺して笑っているんだ。)
何もかも知っていて、余裕綽々(ヨユウシャクシャク)と薬を差し出す魔女。
疑問は更なる怒りに変わり、王子の胸の内で燃える炎をより加熱させた。
「…私の愛する人に飲ませるつもりなんだ。」
王子は魔女と距離を置いたまま、訝りを押し殺して語り始めた。
魔女を睨みつけるその目は、艶美な狡猾さを孕んで輝いていた。
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