永久に夢を観よう

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「私はその人を愛している。狂おしいほどに。」 彼は誰もが恋に落ちるであろうほど、甘く妖艶な声で愛を口ずさむ。 王子は軋む木製のドアに背中を預け、しなやかな指を持つ美しい手を外套の左胸に添えた。 彼の表情は、恋する青年の深い憂いを帯びていた。 実際彼は、自分の唇から紡がれた嘘偽りない純真な言葉によって、傷ついていた。 つい先日まで、彼は自分に向けてついた嘘を信じ続けていたのだ。 『彼女を愛してなどいない』と。 その嘘を見破ってしまった今、ずっと否定し続けていた愛の言葉が、彼の心に深々と突き刺さっていた。 その上、この告白をよりにもよって魔女に聞かせているという事実が、彼を酷く惨めな気持ちにさせていたのである。 (嫌いだったはずの女性(ヒト)を、何故私は愛してしまったのだろう。嫌いなままで居れば、こんなに苦しい思いをしなくて済んだというのに。  嗚呼、しかし、愛している事実は変えられない。それだけは、決して変えることが出来ない。) 愛する人を見つめる瞳、愛する人を語る唇。 王子の表情を一瞬だけ艶やかな恍惚が彩った。 しかし、彼はすぐに眉を寄せて、表情に哀愁にじませると、気だるく甘美な憂鬱の溜め息を吐いた。 「その人は私の気持ちを知らない。いや、知っていて気づかない振りをしている。そうやって私の心を弄んでいるんだ。  だから、憎い。愛しているが故に、憎くて憎くて仕方がない。  その瞳に一瞬でも私の姿を映してもらいたくて、私はその人を散々傷つけようとした。しかし、何をしても無駄だった。その人の目に、私は一切映らなかった。」 王子は一旦言葉を切り、自分の心臓を抉り取るかのように、外套を握り締めた。 魔女は王子へ一瞥も視線を流すことなく、薬をフワリと宙に浮かばせて、それを退屈そうに指先で弄んでいた。 光の加減により赤や青に妖しく輝く薬から目を放さず、魔女は呟く。 「ほぉ…。左様で…。」 魔女は王子の繊細な感情など、まるで汲み取る気配がなかった。 (本当は最初からわかっていた。) 王子はバラ色の唇を噛み締めた。 (魔女という者は、常人の考え、いや、自分以外の者の考えに全く感心がない。  魔女とはそういう者なのだ。わかっていた。) 魔女の性質を理解していても、王子は胸の内から湧き上がる怒りを捨て去ることが出来なかった。 むしろ、彼の怒りは募るばかりだった。
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