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それは些細な事がきっかけで起こった。
「チャンネルかえるなよ」
「だってこっちの番組みたいもん」
「あ?」
次の瞬間、兄貴の拳が僕の顔面に飛び込んできた。
ボコッ
ボコッ
「やめて!」
思わず叫ぶ。
それでも聞き入れられず、続けざまに殴られた。
ボコッ
ボコッ
ちょうど帰宅した母さんが制止しようと間に入った。
「やめなさい!」
振り払われた兄貴は鬼の形相だ。
「こいつ俺をなめてる!」
興奮しながら兄貴は続けた。
「どれだけこれまでしてあげたか」
「だからって殴ったら駄目でしょ!」
「勇太!お前、俺に何一つ感謝してないよな!?」
母さんは既に涙目になっていた。
「そんなことないよね?勇太、感謝してるよね?」
大量の鼻血で息苦しい僕は、問いかけに答える余裕なんてあるはずもなく、ただ無言で傍観する他なかった。
不思議と兄貴に対して怒りはない。
殴られた理由が幼少期からの積み重ねであることはすぐにわかった。
ただ、その頃の記憶が曖昧なのである。
仲良く二人で遊んだこと、病院のベッドの上に長くいたことぐらいしか覚えていないのだ。
その事件以来、兄貴とは微妙な距離を保つこととなった。
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