やっくん

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想像以上に騒がしい。 奇声を発する者、自分を傷つけないようヘッドギアを着用する者。 そんな輪の中に棟方さんは入り、皆と触れ合う。 「おっ!今日は元気がええやん」 「気合い入れてくでぇ」 「その服、似合っとるで」 関西弁のせいなのか、一言一言に親しみを感じる。 場違いなのかもしれない。 違う世界に引き込まれた感覚。そう表現するのが正しいだろう。 保護者も含めて50人はいるな。 「早苗さん、勇太くん」 手招きをする棟方さんはとても楽しそうだ。 簡単に二人の紹介をした後、それぞれにつく障害者を棟方さんが決める事になった。 「う~ん。勇太くんはやっくんでええか?」 そう言った棟方さんに対して、保護者から反論が出る。 「それはまだ無理でしょ」 なんだ? やっくんってそんなにやばいのか? 結局、棟方さんと保護者側で意見が合わず、僕の意見を聞き入れることになった。 やっくんは20歳で重度の知的障害者。 奇声を発したり予測できない行動をとる。 自分を傷つけたり他人を傷つけたりしないものの、突然走り出す習性があるという。 保護者は同伴していたが、別の障害者につくみたいだ。 断る理由はないので引き受ける事にした。 「僕なら問題ないっすよ」 不安を押し殺してやっくんに声をかける。 「今日はよろしくね」 そう手を差し延べると。 「あ゛っ!」 と奇声を投げつけられた。
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