やっくん

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弁当は保護者と食べるようで、一旦やっくんの側を離れる事になった。 指定された場所には早苗さんがいて、僕の分までお茶を入れてくれている。 「お疲れ様」 弁当を差し出しながら、早苗さんは労いの言葉をかけてくれた。 「こういうボランティアは初めて?」 「はい」 「だと思った」 軽く微笑み、椅子に腰掛ける。 早苗さんは細身で、どちらかというとお嬢様タイプだ。 ボランティアに参加したきっかけは何なんだろう? つい質問を投げ掛けてみたくなった。 「なんでボランティアに参加しようと思ったんですか?」 「あぁ、子供がね、知的障害者なのよ」 質問の内容を予め知らされていたかのように、すぐに回答が返ってくる。 何度も質問されているのだろう。 現実はこんなもんだな。 自分も障害者だと言えなくなってしまっていた。 偽善者を気取るつもりもなかった。 やり場のない感情に押し潰されそうで、何も言葉にできないというのが本音だ。 先天性の心臓病にコンプレックスを持っているのは事実だが、こういう気持ちで言い出せないのは初めてかもしれない。 人は痛みを経験しないと優しくなれないのだろうか?
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