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おばさんは怪訝そうにわたしを見る。
「おばちゃんが嫌かい?」
「No、違ウマス」
「なるほどね。旦那、一晩泊まっていきなよ」
「なんでだよ。急がにゃいけねぇんだって」
「あたしに子供押しつけといて馬鹿抜かすんじゃないよ」
「うぐ……」
コヅエは黙る。
「あれだけたんまり貰ったんだ。旦那の分はまけてあげるよ。早く上がりな」
「本気かよ、畜生」
「それと、後でこの娘のこと聞かせて貰うよ」
おばちゃんはコヅエよりも強いらしく、コヅエは嫌だ嫌だと言いながらもおばちゃんの後に続く。
「ほら、入ろうぜ」
コヅエが再び寄ってくる。
この家の中には入りたくない。
わたしはにげようとした。
しかし、コヅエはすぐにわたしを抱き抱えてしまう。
「ただいまぁ~」
「しかし、なんでまた俺が泊まらなきゃならねぇんだよ」
コヅエは白いご飯を食べながら言う。
「この娘にお別れせにゃならんでしょうが」
「お別れったってよう。知り合ってまだ少ししか経ってねぇぜ。なあ?」
コヅエが急にわたしのほうを向いた。
「びっくりしてんじゃないか。いきなりでかい声出すんじゃないよ」
おばさんは更に大きな声を出す。
「第一、旦那は女の気持ちを考えなすぎだよ」
「なんでんな話になんだよ」
「少しはその娘の気持ちも考えておやりな」
日本人はやはり声が大きいと思った。
室内薪を囲みながら食べるご飯は初めてだった。
「口に合うか? こんなんで悪ぃな」
「こんなんで悪かったわねっ」
「平気、ケドコレ何?」
わたしはスープから変な黒モノを引き出した。
「ワカメだよ。海の葉っぱだ」
「……怖イノデ、コヅエニアゲル」
わたしがハシにひっかかったワカメを突き出すと、コヅエが雛鳥みたいにパクンと食べる。
「ハイ、ハイッ、ハイッ」
楽しい。
「後は自分で食べなね」
おばさんの睨みにわたしとコヅエは縮こまった。
「アッ、嫌イヤッ、怖イ」
「怖くねぇから、ほれゆっくり」
夜、コヅエはわたしの風呂の手伝いもさせられた。
見たこともないカマブロ、そしてわたしをあの鍋で煮ようとしてくるコヅエ。
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