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真っ赤な血の池の中で、わたしは大きな獣を見上げていた――
だけど、それが獣ではなく男の人だとしばらくして気付いた。
最初は真っ黒いウルフに見えた。
狼はわたしを剥ぐ悪魔達をあっという間にバラバラにしてしまった。
ワーウルフみたいな目付きで男の人はわたしを見下ろす。
「なんだぁ? 南蛮人じゃねぇか」
男の人はしゃがんでわたしと同じくらいの高さに顔を近付ける。
コンドルみたいなバサバサの髪の毛、レオみたいな大きな体、そしてウルフと同じ澄んで深い瞳。
この人はたぶん、モンスターだ。
「南蛮人初めて見た。平気かよ? 細ぇな、人形みてぇだ」
ウルフマンはわたしをその澄んだ瞳で覗き、羽織っていた灰色のフードをわたしに被せた。
たぶん、ここで死ぬのだろう。
この地獄みたいに恐ろしい土地で、あの恐ろしい悪魔を瞬きの間に殺してしまったウルフマンだ、もう逃げられないだろう。
「南蛮っ子よ、父ちゃんと母ちゃんはどうしたよ? って言ってわかるかな……」
「オトサ? オカサ?」
「なんだ、言葉判るんじゃねぇか」
ウルフマンは、嘘みたいに優しい顔で笑った。
「言葉わかるか? こ・と・ば」
コトバ……
「ニホンゴ、少シ」
「そうか、そりゃ良かった。ここらは危ないから離れた方が良い。一昨日まで近くで合戦があったんだ」
?
ウルフマンはゆっくり話すが、少ししか聞き取れなかった。
「キケン?」
「そうだ、そのとうり。だから早く逃げろ」
「逃ゲル、ナイ」
逃げるところなんてない、お父さんもお母さんも何処かへ行ってしまった。
「行き場所がないのか……、しょうがねぇなぁ」
ウルフマンはその手でわたしの手を掴む。
「ここにいても仕方ないだろ。当てにすんのも気が引けるが、さっきまで世話になってた宿まで送ってってやるよ」
「イイエ、ゴメンナサイ、アノ……」
どうして良いかわからない。
この人もまた、わたしを苛める悪魔ではないのだろうか。
「ほれ、いつまでもそんなところで立ってんな」
わたしの戸惑いをよそに、ウルフマンはわたしを血の海から連れ出した。
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