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ウルフマンはわたしをおぶってくれた。
「こんなちいせぇ餓鬼を剥いちまうなんてよ。糞野郎共が……。あー、南蛮っ子ちゃん、変なことされなかったか?」
「叩カレタ、着物取ラレタ、ウルフマン来タ」
「ウルフマン??」
ウルフマンは変な顔をする。
「大丈夫……なのか?」
「ダイジョブ、平気デス」
不思議な人だと思った。
この国に来て初めて出会った優しい人だった。
この人は、ウルフマンなんかじゃない……
「The name?」
「あ゙?」
「オ、オ~、オ名前」
ほんの少ししか覚えてない日本の言葉を頭の中でグルグル組み合わせる。
「名前か? 俺は梢重ってんだ。コ・ズ・エ」
「コ…ヅエ、コヅエ」
「ちょっと違うけどな」
コヅエは少しだけ笑った。
わたしも、それを見てるとホッとする。
コヅエの背中に強く強くしがみつく。
置いていかれないようにしがみつく。
「南蛮っ子ちゃんはなんてぇの? 名前はよ」
コヅエはわたしに名前を聞いてくれた。
何かむず痒いような、熱い火のようなモノがわたしの胸を押し上げる。
難しいけど、嬉しくて恥かしかった。
「サシャ、サシャ・ユーゲンノーツ……言ウマス」
「長げぇなおい……、覚えらんねぇわ。そんじゃ頭だけで勘弁な。さしゃ……、“さしゃ”な」
「ン、コヅエ」
「ああ、俺な。でお嬢ちゃんが、さしゃ」
「ン」
地獄から連れ出してくれたウルフのような男の人は、わたしの名前を呼んでくれた。
恥ずかしさと嬉しさが胸の中でいよいよ爆発しそうになる。
「アリガト……」
「ん?」
「助ケテ、アリガト」
わたしは、コヅエの背中に顔を押し付けながら呟く。
「怖かったろ」
コヅエは、とてもゆっくり言った。
何故か今になって涙が溢れてくる。
「怖カッタ、怖カッタデス」
「あぁ、よしよし、泣け泣け」
わたしは、ウルフの背中の上で泣いた。
この国では全部故郷と違くて、泣くことすらも伝わらなかった。
けど、コヅエはわたしの涙の意味をわかってくれた。
「落ち着くまで休むか。話し聞いてやるからよ」
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