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コヅエは少し道を外れて、小さな川の岸に降りた。
川に向って下る急斜に荷物を下ろして、わたしも背中から降ろそうとする。
「っておい……、いつまでくっついてるつもりだよ」
「…………」
コヅエの背中から降りたくなかった。
わたしは着物を握り締めて放さないように努める。
「おいおい、南蛮流の何かかよ? 蝉じゃねぇんだからよ」
乱暴ではなく、困ったようにわたしの手を取るコヅエ。
「置イテカナイデ」
わたしは怖かった。ここでコヅエと別れたら……嫌だ。
「置いてかねぇよ。置いてかねぇから放そうな」
言葉はわからないけど、わたしの手を包む優しい手を握り締めた。そして背中から降りた。
降りてすぐに涙が止まらなくなってしまった。
「あーあー、まだ泣くか」
コヅエはわたしを膝の上に座らせて、抱き抱える風になった。
「落ち着くまでだ。背中にくっついてるよりマシだろ」
「ア、アウ……」
コヅエの顔が近い。抱き抱えられてる感じはまるで白雪姫だ……
心臓が早鐘のように打つ。
「顔真っ赤じゃねぇか、風邪っぴきかよ?」
コヅエはおもむろにその手をわたしのおでこに当てた。
「ア、ン……」
「分からんが、こりゃのんびりしてねぇで早いとこ宿に……ってうおっ!?」
わたしは正面からコヅエを抱き締めた。
赤い顔を見られたくなかったし、立ち上がろうとしたコヅエを止めたかった。
それに――こうしたかった。
「あーよしよし、どうしたんだよ」
「マダ、ヤダ」
「だ~から置いていかねぇての。本当にしょうがねぇな」
コヅエは脇に置いた荷物に手を伸ばす。
わたしはそれを止めたくて、力を振り絞って抱き付く。
「嫌、嫌ダ」
わたしの抵抗も虚しく、コヅエは荷物を引き寄せる。
「これ持っとけ」
コヅエは長い筒をわたしに押し付けた。
「?」
「俺の宝だ。命よりとまではいかねぇが、命と同じくらい大切だ。これ預けるから、俺はさしゃを置いてったりしねぇよ」
「大切……」
それはブレードだった。
カタナではなく、故郷にもあったブレードだ。
フードといい、ブレードといい、コヅエはわたしの故郷の物を幾つか持っているみたいだった。
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