狼と星

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「見ル駄目?」 「せっかく好いてくれた娘に嫌われたくないからな。絶対見せねぇよ」 コヅエは悲しい顔をした。 「サシャ、コヅエ嫌イニナラナイ。絶対好キ」 「それはどうかなぁ、俺の仕事は最悪だぜぇ。餓鬼が見たら絶対泣くな」 「泣カナイッ、置イテ行カレルノワ泣ク」 もう独りは嫌だ、置いて行かれたくない…… 「駄目、そこは譲れねぇな。もう餓鬼を、しかも女を巻き込みたくねぇんだよ。つくづく痛い目みたからな」 「?」 「ほれ、そろそろ行くか。日が高いうちに着きてぇ」 コヅエはわたしを抱えてヒョイと立ち上がる。 わたしは抵抗する暇もなかった。 「ほれ、背中にくっつけ」 「ッ……」 わたしら今更ながら抵抗する、背中に回されたらすぐに歩き出してしまうだろう。 「抱っこが良いってか? ったく本当に餓鬼は面倒くせぇな」 わたしの抵抗すら気にせず、わたしを抱っこしながら歩き出してしまうコヅエ。 「違ウ、止メテ、嫌」 「嫌だね、お兄さんも暇じゃねぇの」 わたしは遂に諦めて、おとなしく抱っこされることにした。 別れの近い匂いがする。 わたしはコヅエの胸に顔を埋めながら、どうしたら気に入って貰えるのか考えた。 「アー、Will you marry?」 「は?」 「アー、待ッテ……」 この言葉を日本語でどう言ったら良いかわからない。 「ズット、一緒二……」 「そりゃ無理だって、さしゃは上手く行けば故郷に帰れんだ。こんな荒れた国に居ることはねぇよ」 「Will you marry?」 「だから何だよそれ、南蛮の言葉は分かんねぇんだよ」 「Will you……marry?」 「悪ぃな、分からねぇ。うちの上司に話せる人が居るんだが……」 「ゴメンナサイ。困ッタサセテ」 「いいよ。俺の学が無ぇからだ。さしゃはここの言葉喋れるんだから胸を張れよ」 違う、わたしは全然駄目だ。 本当に伝えたい気持ちを言葉に出来ない。 本当に悔しい。 一緒に居たいのに。 さっき出会ったばかりのコヅエにここまで惹かれるのは何故だろう…… 優しくしてくれたからだろうか、心強いからだろうか。 違う、初めて見た時、コヅエは息が止まりそうなくらい美しかったのだ。
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