狼と星

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美術品のような美しさではなく、野山を駆ける獣のような、生命力に満ちた美しさ。 悪魔のような人達を薙払う力強い躍動。 無骨な美しさに、わたしは惹かれたのだろう。 さっきの言葉がもし伝わっていたら、わたしはこの人に付いて行けたのだろうか。 永遠の絆を約束出来たのだろうか…… 「心配することはねぇよ。もうちょいこっちの言葉勉強すりゃ、食うに困らねぇだろうよ。南蛮の言葉とこっちの言葉覚えてれば正直かなり重宝されるぜ。そう悲観的にならねぇでもよ」 「日本ノ言葉覚ルカラ、ソシタラ、コヅエノ役立ツ」 「要らねぇよ、南蛮人と会う機会もねぇし。第一、なんで俺なんかと行きてぇんだ。恩を感じてんならお門違いだぜ」 「違ウナイ。コヅエ好キ」 またじわりと涙が出て来た。 「南蛮人のくせに義に厚いのな。恩返ししてぇなら別品のねぇちゃんになってからな。そしたら貰ってやるよ」 コヅエはワハハと笑う。 「ベッピン、ネェチャン?」 「下らねぇ戯言だよ」 ベッピン、ネェチャン それになれれば恩返し出来る―― 一緒にいれる―― 「明りが見えた。おら、アレだよ。日が落ち着る前で良かったぜ」 わたしはコヅエの背中から、木で造られた家の並ぶ集落を見た。 日は赤く落ちかけ、故郷と同じ景色だ。 日出国でもやはり日は沈む。 コヅエとの別れも近い。 コヅエは、日本語の文字の書かれて看板の前で止まり、引き戸をノック無しにためらいもなく引いた。 「なんだぁい、もう夕飯もねぇよぉ、お客さん」 奥からは歳のいった女の人が出てきた。 手を布で拭いながらわたし達を見る。 「あらあら旦那っ、どうしたんだい!? 朝出てったばかりじゃないのさ」 「野暮用が出来ちまってな。悪ぃがこの娘っ子の世話たのめねぇかな」 コヅエはニヤニヤしながら言う。
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