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「はぁ!? 馬鹿野郎、おめぇ……南蛮の女の子じゃねぇかっ」
「野伏に悪さされそうなところを助けたんだがよ。俺にはほら、仕事がよ」
「あたしにだって仕事はあるわ。どうすんだい、この娘」
おばさんはわたしをチラチラ見る。
「おばちゃん昨日言ってたよな、前に息子亡くしたって……」
「関係ないわっ、それにしたって南蛮っ子て、厄介ごと持ち込む気かい」
「おばちゃん頼むよ。俺もすぐに出にゃならんし。今はこの娘に貸してるけど、“蛇の目印の西洋頭巾は精一杯もてなせ”って言うだろ?」
コヅエは背中のわたしにフードを被せる。
「なぁにが蛇の目印だいぼろくて分からねぇじゃないのさ。第一、“蛇の目”の噂なんて風に乗っかって来た作り話さね」
おばさんはグイグイとコヅエを建物から押し出す。
「あーわかった。わかったよ」
コヅエはわたしを抱っこしたまま外に出る。
淡い期待が膨らむ。
このまま断られたら、わたしはコヅエと離れないで済む。
「わかったよ。此所から先は今世の世間での大事な大事な取引だ」
コヅエはおばさんに扉を閉めるのを待ってもらう。
そして、わたしをゆっくり降ろす。
「難しい話かも知れねぇが、今からお女将さんと大切な話がある。少しだけ2人で話してぇからよ、外で待っててくれねぇかな」
「っ――」
わたしは首を左右に振る。
そうやってわたしを置いていくつもり?
「置いて行ったりしねぇよ。刀持ってるだろう。だから離れない」
「嫌ァ、嫌ナノ」
異国の言葉なのに、口にすると涙が出てくる。
「また泣くか」
コヅエはわたしを強く抱き締めてくれる。
「親無しで、乱暴されかけて、また独りになるのは怖ぇよな」
抱き締められて嬉しい筈なのに、彼の弱々しい声色はわたしを不安にさせた。
「気持ちはわかってるつもりだからよ」
コヅエはわたしから離れてから頭を撫でる。
そしてコヅエはおばさんと建物の中に入っていった。
わたしはフードローブの端を握り締めながら座り込む。
わたしと同じくらいのこの国の子供達が、各々の家に向って駆けていく。
みんなわたしをジロジロと見て、冷かすように笑いながら駆けていく。
わたしが異人で、こんな姿だからだろう。
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