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寄り掛かる建物の中からは、おばさんの怒鳴り声。
今になって、心細くなる。
お父さんとはぐれてからまだ一日しか経っていないのに、こんなにも苦しく不安だ。
この国の神様は沢山いると聞いたから、手の空いてる神様ははぐれた異人にも慈悲をくれるんじゃないかと思って、教会に当たるところで夜を明かした。
それでも悪魔のような人達が昼にはやって来て、わたしに怖いことをしようとした。
今気付いたが、首から下げていた筈のロザリオを無くしていた。
あの時むしり取られたのだろう。
あの時は、主への祈りも頭の片隅にあって、わたしの全意識は悪魔を薙払った美しい獣に向いていた。
夕焼けが辺りを真っ赤に染める。
太陽の光は世界中に平たく注ぐのに、主の目はこの東の果ての地には向かないのか。
わたしを助けてくれたのは主ではなくコヅエさんなのだ。
ガラガラと、扉が開いた。
中から笑顔のコヅエが顔を出す。
「案外早かったろう」
「Yes」
反射的に答えたけれど、この短い時間さえわたしには永遠に思えた。
それでも、永遠ではなかったのだからコヅエが帰ってくるのは早かったのだろう。
「…………」
コヅエに続いておばさんがムスッとした顔で出てくる。
「さしゃ、だっけ? よろしくね。ここが今日からあんたの家だよ」
おばさんの言葉は、わたしの頭を殴り付けた。
「アレ、何ゼデスカ?」
「そりゃ、あれだけ積まれればねぇ」
「おばちゃん、その話はくれぐれも内密にっつったろ」
コヅエはおばさんを肘で突く。
「わかってるよ、あんたからは厄介事の匂いがするからね」
おばさんは建物に引っ込む。
「どうにかなるまで世話になる家だ。挨拶しろよ」
コヅエはわたしの手を握ろうとする。
それをわたしは はたいて拒んだ。
「ヒッ、ヒァァン、アアアン」
涙――
「お、おいおい、なんで泣くんだよ」
わたしの頭をを撫でようとした手をまたはたいて拒む。
「あ~あ、なに泣かしてんだい」
「いやぁ、俺と行きてぇとかずっと言ってたんだがよ。家見つかりゃ、んなこと言わなくなると思ってたんだがなぁ……」
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