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「ところで、一体どうなったらこういう体勢になるんだ?」
「いーのいーの、カズミの成長を肌で感じるためだもん」
とか言いつつ、胡座をかく俺の足の上にちょこんと座るリオ。
先ほどの口論の無生産性にそれとなく倦怠感を覚えつつ、太陽も雲もない空をまったりと眺めていた。
俺が死ぬ間際の最期の風景、寒空に鳥が飛んでいたことを思い出しながら感慨に浸っていると、リオがぼそっと呟いた。
「久しぶり、カズミ」
「…………あぁ。久しぶり」
「私、実は結構寂しかったんだよ」
バスケの遠征から帰った俺を出迎えてくれたのが、黒縁の額に入ったオマエの写真だった時の俺の気持ちも相当にダウナーだったけどな。
思わず口から漏れそうになった言葉を飲み込み、俺はシリアスブルーに格好良く、常套句に逃げた。
「……わるい」
「──ちがぁーう」
リオのチョップが俺の眉間に突き刺さる。あんまり痛くないけど。
何が『違う』のか理解できずに顔をしかめた俺の下では、リオがチョップした手を抱えて涙目になっていた。かわいいなおまえ。
顔を上げたリオの目尻にはやはり光るものがあったが、そこは外見不相応に強がるのがコイツである。
「そ、そういう時は黙って抱きしめちゃうもんなのっ」
「そういうもんなのか?」
言葉は気丈だったが表情と声質はかなり悲痛である。
よほど痛いのかそれ以上喋ろうとせず、俺の言葉にただこくこくと首肯することで返した。相当に痛かったらしい。
果たして今まで寂しい思いをさせたから抱きしめるのか、痛がる子供によしよししながら慈悲心で抱きしめるのか、どっちが正しいかは定かではなかった。
しかしこのままリオを抱きしめていいものなのか。いやよくない。よし、保留。
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