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「ところでさ」
「……切り替え早いわね、カズミ」
リオが涙目を恨みがましく俺に向ける。ふはは、俺もオトナになったのさ。
さておき閑話を挟むな一々。もっとテンポよく会話しよう。
「ここって、どこなんだ?」
それが素朴にして第一の疑問。
能面ババアとか幽霊とか、てんで現実離れした光景を目の当たりにしたわけで、『ここは夢の世界だよー』とか言われても決して驚かない自信があった。
しかしすっと立ち上がったリオは真顔で、俺の予想とはおよそかけ離れたことを言うのだった。
「地獄──」
「じ、地獄ぅ!?」
それは確かに予想の斜め上。俺、生前そこまで悪いことしたっけかな、と今まで目も向けなかった神様に祈りを捧げようとした時だった。
リオが、にぱっと破顔した。……地獄に花?
「──と、近いかんじ、かな」
「へ?」
「すんごく広義的に言っちゃえば天国だって地獄の一種だし。黄泉も似たようなもんでしょ」
「……よ、よみ?」
「そ、ここは"黄泉の世界"」
それは予想の遥か先だ。
そういえばさっき屋台の兄ちゃんが黄泉とかなんとか言ってたような気もする。
黄泉と言えばそのまま死後の世界的なイメージと直結するわけだが、手を組んで空に突き上げて爽やかに伸びのポーズをするリオを見ているとどうにもそんな気がしない。
その妙ちくりんな世界観の一旦を担っている活気溢れる出店の量もおかしいだろ。今日は祭りか?
「んーん、これはいつものこと。ね、死んだことも忘れられるでしょ?」
「むしろ現実逃避したいところだな」
なんでそんなハイテンションなんだ、と一人一人に聞いて回りたいほどである。
周囲を見渡しては現実逃避に走る俺を置いて、リオの説明は続く。
「死んだ人はまずここ、黄泉路街道の中腹に来ることになってるの。一体何がどうなってそうなってるのかは知らないけど。
とりあえず、死んでるからみんな"幽霊"かな。ここに来た幽霊はそれから、ちょっとした旅をしなきゃいけない」
「旅?」
「そ。黄泉の国を目指して、だいたい5日くらいの旅かな? 死んだ人はまず、みんなそこに行かなきゃいけないの」
黄泉の世界の黄泉の国、ね。
死後も大変なんだな。うっかりハーレムとか予想していたんだが。
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