1話

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   偏にドラゴンと言えども、人によって思い浮かべる姿形は疎らだろう。  例えば、長い蛇に翼が生えたようなドラゴン。  例えば、サンショウウオが超進化したようなドラゴン。  あとは、二本足で背中に翼が生えていたり。  今回は、最後者。二本足で手があって、尻尾があって、背中に雄々しい翼が生えているドラゴン様だった。  赤い体皮は、おそらくとてつもなく堅い鱗で覆われているのではないかと存じます。  口からは超高熱の火炎を吐き出すのではないかと邪推致す次第です。  俺の肩の上の幼女が一体何を持って余裕ぶっているのかは知らないが、あの猛々しいドラゴンが生物界の頂点に君臨しているようにしか見えなかった。 「カズミ、もっと右!」 「だから髪を引っ張るなって、ハゲんだろぉ!」  やたら右へ右へとリオに操作されていく俺は、ドラゴンの右側方へと回り込んでいた。  動きが鈍いのか、そもそも動かなくても余裕と感じているのか、ドラゴンは首を回すこともなく、そのぎらついた目だけで俺たちを追っていた。  遠くで見た時はちょっと大きいかな、程度に思っていたのだが、俺はドラゴンと遠近法を舐めすぎていたようだ。体長5メートルくらいあるぞコレ。  ゾウさんなんてレベルじゃないな。  それでも退くわけにもいかず走り続ける。その距離7メートルくらい。  その時、突然リオが口を開いた。 「そろそろくるわよ」 「え、何が」  初心者に優しくない言葉を投げつけてきたあと、リオは両手を俺の髪から前方へと移動させた。  それだとバランスが取れないだろうに。結構なスピードで走っているので落としかねないと思い、俺は少しだけ丁寧に走ることにした。  そんな時だった。  ドラゴンの厳つい顔が、不意にこちらを向いた。その眼光だけで射抜かれそうな恐怖を覚えながらも、俺はなんとかリオの指示通り走り続けた。  ここからは、一瞬。  突如として開かれた口に覗く鋭利な牙の数を数えている間に、その奥から漏れ出す紅蓮の赤。  それが何かを悟る前に。  目の前が、真っ赤に染め上げられた。  
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