1話

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  「うおわあああああああ!?」 「ちょっとカズミうるさい!」  そんなこと言われても、悟ってしまった以上は悲鳴を上げなければならない。  今目の前を覆い尽くす紅蓮の正体は、超高熱の火の塊。空を奔るそれは一直線に、拡がりながら向かってくる。  ここからでも感じるその熱風は、もうコンマ数秒後には俺を飲み込み、焼き尽くすだろう。   その刹那。 「熱いのは苦手」  ぼそりと呟いたリオに合わせるように、眼前まで迫っていた炎が突如として何かに遮られて散っていった。感じていた溶けるほどの熱さもどこへやら。  あまりの温度差(二つの意味で)に頭が着いてきてくれない。今目の前に広がった非現実をただ視覚的に受け入れていているだけだった。  薄透明な壁、とでも称すればいいだろうか。スモークガラスのように、向こうの景色がぼやけて見える。  まるで空気が固形化したようだ。炎は俺には届かずにその障壁に遮られては散っていった。  少し視線を上に向ければ、俺の肩の上で両手をかざして涼しい顔をしているリオ。  俄には信じられないことだったが、しかし紛れもなくコイツの仕業だった。 「お、おまえ──うぉ!?」  轟、と音を立てて、壁に叩き付けられる火炎の量が爆発的に増えた。  おそらくドラゴンの奴が怒ったのだろう。そりゃ、こんなガキに自慢の炎をあっさり防がれたのでは、仕方ない。  しかしそれでも退かない。俺はただ突っ立ってるだけで踏ん張ってすらいないし、リオもかざした両手を微塵も後退させる気配がない。 「リオ、おまえ……!」  魔法を使える、とは先置きされたが。  ドラゴンの口から吐き出される火炎の方がまだ現実的で、自分の目を信じることができる。  対して、それを防ぐ、俺の肩の上に乗っかった小さな子供──いや、俺の幼なじみ。 「どうかした?」  キョトン顔で俺と視線をぶつける、リオの顔には一寸の翳りもなく。  かざした両手も、抗うのはただ重力のみと言わんばかりに脱力し、その細腕の筋一本でも強張る様子がない。  あまりにも当然のように、あまりにも場慣れしすぎたその所作に俺は言葉を失い、間抜けに口を開けて突っ立ってることしかできなかった。  
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