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「だーかーらー、寝なくてもいいし食べなくてもいいの」
「最初からそう言ってくれれば分かるのに」
そりゃ、幼女とはいえ性別女性の口から『生理』なんて言葉が飛び出せばそういう想像に行き着くわけで、決して俺がやましいとかそういう話ではない。
ともかく理解はできた。幽霊になったら、生物学的に言う生理、つまり生命活動を維持するための行動を行わなくてもいいということだ。
死んでるのに生命活動とか、考えてみればする必要もないか。
「って俺、寝たぞ」
「まだ慣れてない人はそうなの」
「なるほど」
ともすれば、慣れると呼吸の必要もなくなるのか。なんとも想像に難い話である。
「そもそも、死んでるっていう実感を持てないのが原因だよな」
そしてその原因の大元は、この黄泉の世界とやらにあるのだ。何せ、起きてすぐには自分が死んでいることなんて忘れていたくらいだ。
辺りを見渡せば、現実世界でも普通にあった草原。太陽はないがちゃんと青い空。ちゃんと生き物もいる。……とは言えスライムやらドラゴンやらだが。
ふぅ、と腕組みした。
自分が死んだことについては、これから先できるだけ考えないようにしたい。
それは自分の死を認めないということで、多分良くないことなんだとは思うが。まともに考えたら狂いそうだし、何より一つ気がかりがあったから。
「さて、死んだなんだでネガネガしてても仕方ないし。先、急ぐんだろ?」
「ん、そうだね」
歩き出す。早くその黄泉の国とやらに早く行って、悠々自適な生活を送りたいものだ。
できればドラゴンとかにはもう出会いたくなかったけど、情けないことにコイツさえいればドラゴンごときアリと大差ないのである。
「……そういや、おまえ俺が寝てる間なにしてたんだ」
「んー、ナイショ」
悪戯っぽく笑うその顔を直視してしまった俺は、諸々のちっぽけな悩みを捨てざるをえなかった。
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