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どえらい非日常に放り込まれた割にのほほんとしているように見えたかもしれないが、当の本人はさして気にしていないので諸々は省略しておこうと思う。当の本人とは何を隠そう俺のことである。
そんな俺だが、黄泉の国への道中のことだ。体内時計ではおよそ昼時ではないかと思う。
俺とリオは、しかめっ面で対峙していた。
案件①。俺に魔法とやらを教えてくれてもいいじゃないか。
「だから、別に減るもんでもなし、教えてくれてもいいじゃないか」
「駄目なものはダメ! あんまり聞き分け悪いと怒るよ!」
「じゃあせめて理由を教えろって。俺だって納得できないぞそんなの」
格好良くマダ○テとか使いたいわけじゃない。
ただ、昨日ドラゴンに襲われた時に何もできなかった自分が情けないだけだ。更に自分を追い込むために言うと、こんなちっこい幼女に守られる自分がみっともないだけだ。これは自虐だが俺は断じてマゾヒストじゃない。
ともかく、人並みの羞恥心と常識と年齢相応の自覚があれば、なんとかしたいと思うのは自明の理というものだろう。俺の主張のどこに不正がある。
しかしリオはしかめっ面でひたすら「ダメ」の一点張りなのである。
「良いじゃない、昔みたいに黙って私に守られてれば!」
「俺の身より俺の面子ってものを心配してくれ。おまえは成長止まったかもしれないけど俺はしっかり10年分成長してるんだ」
「成長してもカズミはカズミだもん」
リオの言葉は場合によっちゃ、全身傷だらけの状況よりもダメージが大きい。
俺は必死に交渉を重ねた。断られる度に自分の面子を守るギリギリまで譲歩もした。具体例を挙げると、例えば、せめて自分の身だけでも守れるように自分の体を透明にできる魔法を教えてくれ、とか。例えば、絶対に逃げられるように物凄く足が速くなる魔法を教えてくれ、とか。
何を隠そう俺はチキンである。
それでも、リオは首を縦には振らなかった。
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