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数秒、静寂。もう俺には譲歩することのできるカードはない。主張も言い訳も全て潰された。手詰まりだ。
饒舌なまでに論理的に、または我が儘なまでに非論理的に、リオに叩きのめされた俺はもう押し黙ることしかできない。
リオが少し俯きながら言う。
「……ごめんね、教えてあげられない」
「……ま、いいよ」
バツが悪くなって視線を空へ逃がした。空は味気なくて、見ていても退屈だった。
何かきっと、俺に魔法を教えられない理由があるに違いない。
それも、抗えないくらいに大きくてどうしようもないような理由が。
例えば、俺は魔法を使えない代わりに凄い能力があるとか。例えば、魔法を使うことで寿命が縮んでしまうとか。
自分に言い聞かせる、馬鹿らしい言い訳だった。リ
それでも構うまい。理由があることはきっと違いない。
例え魔法が使えなくても、俺はこの鍛え上げられた健脚で地の果てまで逃げてやる。うわ、とても情けないな。
ぽんぽん、と背中を数回叩かれた。
後ろ向きな俺をリオが励ましているのか──最初はそう思ったけど違う。リオは俺の真正面だ。俺の背中まで手は届くまい。
なら誰だ──振り向こうとして、やめた。デジャブよりもっとリアルに近しい既視感が俺を踏みとどまらせた。『こんなこと、つい最近なかったか?』、と。
「あ、能面おばあちゃんだ」
「やっぱりかというかその愛称はなんなんだよ!!」
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