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馬鹿らしくて、じゃれる二人に俺は背を向けた。勝手にやっててくれ、生憎と、俺はホラーが苦手でね。
その顔を見ることさえしなければ、能面だろうが関係ない。現世ではそれを現実逃避と言ったか。でもさ、多分、この世界って現実逃避しないと生きていけないと思うんだよな。きっとそうに違いない、だから俺が今の現実から目を背けるのも、決して悪いことじゃない。
「ははっ、そうさ、そうに違いないさ」
まるで儒教か何かのように呟きながら自分に言い聞かせていると、背後からの声が耳に飛び込んできた。
「え、どうかしたの?」
「もごもご」
「……あらら、それは大変。どこらへんか分かる?」
「むぐむぐ」
「そっかぁ。おばあちゃん腰悪いから、歩いて探し回るのは大変だよねぇ」
「ふぇっふぇっふぇ」
その会話、噛み合っているのかよ。
背を向けているからどんな表情をしているかは分からないが、話の内容からそれを察するのは簡単だった。
おそらく、いや絶対。リオはこのお婆ちゃんの悩みを聞き届けようとするはずだ。
俺は振り返りながら、
「で、その婆ちゃんはなんて言ってるん──
──ってうぉわっ!?」
振り返った先、目の前に能面。
仰天して尻餅付いた。そんな俺を見下ろす能面。
近い。近すぎる。なんでそんなに近いんだ。今のは俺じゃなくても悲鳴を上げるぞ。めっちゃこわい。
「……んーとね、能面おばあちゃん、落とし物しちゃったんだって」
コラ、ちょっとはこっちの心配もしやがれ。
「凄く、ね。凄く大事なものらしいの」
ん、歯切れが悪いな。
いつもなら一も二もなくその落とし物とやらを探しに行くはずなのに。
「……ねぇ、カズミ」
「……なんだよ」
らしからぬ態度に、尻餅付いたままの俺も思わず声色が低くなった。
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