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「……ね、カズミはどうすればいいと思う?」
「どうすれば、って……」
思いがけず言葉を失ってしまった、そのことから、いかに俺が自分の耳に懐疑を抱いたのかが窺える。
本当なら、幼子に行動指針を問われた大人としては、さらりとその道を示してあげるべきだった。更に今回にしてはその道は誰でも分かる善の道で、俺だってそれを理解していた。
でもそれが口から出てこない。いや、それどころか頭にさえ浮かばない。ただ、そんな自分を冷静に分析しているもう一人の自分が、途方もなく冷酷に思えただけだ。
情けなく絶句する俺に、リオが続ける。
「……実はね、今してる旅って、凄く急がなきゃいけないの」
俺が信じて疑わなかった言葉とは程遠く。
不意に、目の前の幼子が誰なのかすら分からなくなった。
そうなると不思議なもので、言葉を失った我が口は今度は流暢に詭弁を垂れ流しはじめた。
「……っ、それって、人助けより優先しなきゃいけないことなのか?」
「っ……」
「俺の知ってるおまえなら、俺を引きずってでもその探し物を見つけにいくだろうけどな」
口にした言葉が鼓膜を震わせた時、自嘲にも似た薄ら笑いが浮かんだ。
まるで不安を隠したがる子供みたいだな、と。
年不相応に眉間に皺を寄せるリオに、俺は更に言葉をかける。
「違うか?」
「ん……」
リオがさっきから繰り返していること。
何かを口にしようとしては、きゅっと口を噤む。
それは何か、言いたいことがあるのに言えないもどかしさに苛まれているように見えた。
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