2話

9/17
前へ
/43ページ
次へ
   数瞬の間は凌巡の間。  長く、ひたすらに長く感じたその一瞬の後、ようやくリオが声を絞り出した。 「……いいの?」 「良いも何も、俺が嫌だって言ったって引っ張り回すのがおまえだからな」  自分でも驚くほど、言葉はすんなりと出てきた。  しかも、不安の裏返しでもあるそれは、「俺の知るリオという少女ならこうしただろう」という迷信に近いものを、己の妄想の中のリオの代わりに言葉にしただけだ。  俺は婆ちゃんがどうこうの前に、自分の不安を掻き消すためにそう言っていた。  リオなら迷うはずもないんだ。  人を助けることに、人の為になることに、人の善となることに、自分を顧みず、危険を厭わず、体を賭して。  誰より率先して、誰より徹底して、誰より盲目的に。  人の為に生きているような、そんなリオが、迷うはずがない、はずだった。  俺の不安を掻き立てるかのように、リオの表情はまだ暗い。  不安が破裂してしまうのが、あまりにも怖かった。  ……ええい、たまには俺が引っ張ってやるのも悪くない、ってことにしておいてやる。 「なぁ、ばーちゃん。すぐに見つけてきてやるよ」  リオの後ろに突っ立っているばーちゃんにブイすると、そのままリオの腕を掴む。  掴んで、引っ張り上げて、肩の上に乗っける。 「へ?」 「うし、いっくぜー」 「ちょ、ちょっとカズ──」  有無を言わさず、俺の足は地面を蹴り上げた。  第一歩目からトップギアで、積もりそうな不安を置き去りにしようと、ただ走る。  行き先なんて、二の次だった。  ただ、あそこから、あの空気から、逃げ出したかった。  自分が死んだことよりよっぽど信じたくない不安が、そこにあった。  
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加