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喧噪の主はすぐに見つけることができた。
一人の若い男が騒いでいるのを、数人の人が抑えているのが遠目にも見えた。
騒いでいる男はおそらくまだ20代後半程度だろう。しかし確認できたのはそこまでで、不審な様子に集まった人だかりに遮られて目視では詳しく知ることができなかった。
耳を澄ましてかろうじて、男が叫んでいることを聞き取れたくらいだ。
「オレは死んじゃいねぇッ、誰が認めるかそんなことォ!」
……だ、そうだ。やだね、死に際(おそらく奴も既に死んでいるが)に騒ぐような男は。俺は遺言すら残せずに死んじまったっていうのに。
なんにせよ、面倒事には関わるもんじゃない。無難こそ正義。対岸の火事として済ませようと俺は思ったのである。
背を向けてその場を後にしようとするが、
「逃げ出したぞー!」
との声にはっとなって再び視線を戻す。
まさかこっちに向かってこないよな。そんな悪い予感は得てして当たってしまうものだ。サイナンだ。
悪い予感通りこっちに向かって猪突猛進してくる男の目は血走っていて、どこか頭の悪い獣のような、しかし俺が恐怖を抱いたのも確かだ。
そして、男の右手に握られたあるモノを見たとき、俺の恐怖は一気に加速する──
「邪魔だよテメェ!」
煌めく、白銀の刃。
刃渡り20センチはあるかという、人生で初めて遭遇する、自分に向けられた剥き出しの凶器。
男は振りかぶる。俺は何もできない。
周囲の悲鳴がゆっくりと鼓膜を震わせ、俺は咄嗟に体を強張らせた──死ぬっ!?
衝撃、動揺。本気で己の身に危険を感じた俺は目を瞑りかけて。
視界が暗闇に染められるその刹那。
「!?」
俺の目は確かに、ソイツを確認した。
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