36人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
☆ ☆ ☆
アイツは、馬鹿みたいに真っ直ぐで、
俺がトイレに行くっていえば着いてくるくらいお節介で、
笑ってる時は底抜けに明るくて、
ウソが何よりも誰よりも大っ嫌いなやつで、
ことあるごとに全部全部俺に報告してくる。
勉強も運動も得意で、特に勉強では右に出るやつはいなかったけど、
実は俺にもなかなか見せないくらい隠れた努力家だった。
ガキなのにいっつも周りに気を回せて器量が良いのに、
俺に対してだけメチャクチャ我が儘で、
機嫌を悪くするとなかなか直してくれない。
でも、いっつも俺の隣にいる。
死んだアイツはそんなやつだった。
死んだはずの、アイツは。
ギィン、という耳障りな金属音。次いで、何かが吹っ飛ばされて地面に叩き付けられた砂利の音。
我が身を襲った二度目の死の気配に、情けないことに今度こそ本気で俺死ぬとか思ったんだが。
俺は自分の死以上の衝撃を覚える。
もし今、俺の腹からナイフが生えていたとしても、きっと、今俺を襲った衝撃には遠く及ばないだろう。
立ちつくす俺と倒れる男の間に割って入った一つの影。小さな影は幼子のシルエット。
二転三転する状況に思考が完全に置いてけぼりにされるも、だからこそ、それが誰かをすんなりと理解することができた。
"アイツ"は、どこからか吹き抜ける風にさっぱりしたショートカットをなびかせ、いつかと同じようにグッとVサインを俺に向ける。
「やっほー、カズミ! 生前ぶり!」
死んだはずのアイツが、俺の前で仁王立ちしていた。
最初のコメントを投稿しよう!