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「リ……オ……?」
「うん、そーよ?」
10年の年月を経ても尚色褪せない記憶の中のその輪郭と寸分のずれもなく一致する。
鼓膜を震わす、鈴を転がしたような心地良い声も。
向日葵のようにも見える、まっさらで無垢な満面の笑顔も。
さっぱりした髪型も、洒落っ気のない服装も、目の前の少女を構成する何もかも全部が。
ずっと一緒にいたかった、ずっと傍にいるはずだったあの日の少女と重なった。
しかし、いや、ちょっと待て。
「なんでオマエ……死んだんじゃなかったのかよ」
「なっ、会って早々そういうこと言うかなぁ。ええ死んだわよ、どーせ私は死にましたよーだ! でもカズミだって死んじゃったじゃない! 幼女で悪い!?」
「なんでキレるんだよ。というかオマエなぁ、人の死と自分の容姿を同レベルの問題にするか普通」
「むっかぁ! 人の容姿だけはバカにしちゃいけないって昔あれほど言ったのに!」
「覚えてるかそんなことっ!」
いつの間にか、そして何故か大人げなく怒鳴り散らしていた。
ナイフ男が吹っ飛ばされた時のキョトン顔のまま軽く引くくらいの俺の剣幕に、むっとなって頬を膨らませるリオ。
普段なら気にする人目も憚らず、俺は溜め込んだもやもやを目の前の幼女に吐き出していた。
「自分が死んだことすらまだ自覚ないっていうのに、俺の信じれる許容範囲を余裕でオーバーしてるんだよオマエの登場はっ!」
「カズミ、昔はもっと素直で良い子だった! 私が死んでる間に悪い子になっちゃったの!?」
「幼女が高校生を諭すなぁっ!」
「だから先置きしたでしょ、『幼女で悪い!?』って!」
「自覚してる分タチ悪いって言ってるんだっ」
ここまで本気で口喧嘩したのは生まれて初めてかもしれない。
そんな具合にいつまでも、いつまでも俺は声を張り上げていた。
なんで口論になったかも自覚がないし、そもそもなんの意義があってどこへ向かっているのかもさっぱり分からない。俺はただワケの分からないことを喚き続けるだけだっ
た。
やがて、そんな意味不明でワケが分からない口論も収拾を見せる。
俺が折れる、という形を持って。
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