花見の場所取りはスーツに正座が正装

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窓枠に残っていた破片が鎖(!!!)で薙払われる。 磨きあげられた光沢のある黒い長靴がそこにかかり、黒の皮手袋が嵌められた左手が窓枠にかけられた。 「入学式に一人新入生が足りないんだけど…遅刻は違反だよ?」 『ねえ 君なにしてるの?』から、今の台詞を『彼』が口にしたのは、ほんの数秒のできごとなのだが、気づいたら恭弥は、座ったままその『彼』に顎を掴まれて至近距離に迫られていた。 その全身から漂うのは、凄まじい殺気。 日常生活のほほんと送ってきて、殺気なんかと無縁だった恭弥でも『彼』から立ち上るそれに、身の危険を感じることくらいはできる。 …何より、息がかかりそうな至近距離でその冷たく研ぎすまされた瞳に射竦められて、息継ぎすらうまくできない。 同い年くらいに見える『彼』のいでたちは異様だった。  身長は恭弥より10センチほど高く見える。 サラサラした漆黒の髪からのぞく、猫のようにややつり上がった瞳は、一見ハデスと同じく真っ黒に見えたが、こんな近くで見ると紫暗の瞳だ。 女の子みたいに華奢な身体を包んでいるのは、ナチス将校のような黒い軍服。 中の白いシャツに真っ黒なネクタイをかっちり締めて、軍服は細腰のラインから脹ら脛の辺りの裾に至るまで皺一つない。 『彼』も東洋風な怪しい雰囲気を醸し出しつつ、凶々しいまでに壮絶な美形だった。
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