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「えと‥あの‥」
こんなに細い身体のどこに?
というくらい結構な握力で、恭弥は顎をガッチリ捉えられたまま、せめて視線だけでもそらそうとするが、怖すぎてそれすらできない。
(なんなんだ、この人‥なんで普通に日本人っぽいのに、こんな軍服なんか着てんの?てゆーか、この人視線だけで人殺せるよ‥)
恭弥の背中を冷たい汗が流れていく。
「離すんだ。月詠」
プローメーテウスの穏やかな声音に、微かに『彼』の力が緩んだ。
「その子が次期統主だよ。今までの流れを説明してたから、すっかり彼を引き留めてしまった。彼は何も悪くないからね?悪いのは全部ハデスだ」
「お、俺?」
うわずったハデスの声。
すかさず『彼』が恭弥を手放し口の端を心持ち持ち上げてハデスへ一気に間合いを詰めた。
『彼』の動くのと同時に腰を浮かしたハデスめがけて放たれたのは、先刻窓枠へと降り降ろされたのと同じ細く銀色の鎖。
「相変わらずブッソーな奴」
どこから取り出したのか、漆黒の長剣に鎖を絡ませて『彼』の動きを封じながら、ハデスがこぼした。
『彼』の気の強そうな瞳が細められ、好戦的に輝く。
この隙に後ずさる恭弥の肩にそっと、アフロディーテのほっそりとした白指が背後から添えられた。
情けないことに、耳元にちょうど甘やかな彼女の吐息がかかり、恭弥の体は硬直する。
地味な青少年には女神の存在は余りに不健全すぎる。
それに‥‥
(むむむ…胸がぁあぁぁっ)
スイカ玉みたいな両方のおっぱいが、意識的かなんなのか恭弥の背中に軽く当たっているのだ。
全神経、耳と背中に集中してると言っても過言ではない。
「びっくりしちゃったわね?…彼は月詠蘭丸(つくよ らんまる)。この学園にある応援団の団長で…」
(おっ…応援団???そんな汗くさく健全なものと関わりがあるようには見えないよ。しかも応援団ってフツー学ランじゃないの?なんで軍服なんだ…)
恭弥の心の中の一人突っ込みだけが膨らんでいく。
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