桜の楽しみは酒の味わかってからだが桜見てねぇ

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…桜が舞ってる …ひらひら、ひらひら…入学式シーズン真っ只中の抜けるような青空の下。 バス停『草薙神社』から、境内の周りをグルッと囲った桜並木は、この『神域町』の名物となっている。 その見事な枝振りもさることながら、鈴なりの花弁がそこら辺一体を薄ピンクの桃源郷のように染め変えてしまう。 その並木道を、一人のブレザー姿の少年が、やや小走りに駆け抜けていた。 ざわっ…と折からの強風で、辺り一面視界がピンク色に染まる。 息ができないほどの桜吹雪。 「うわっ‥‥」 そのままのスピードで突き進んでいたので、思い切り何かにぶつかった。 「いって‥ぇ‥」 右目の上を抑えながら足を止める。 と、同時に、がしっと両肩を掴まれた。 「いっ‥‥」 容赦ない力に、さらに眉をひそめる。 「あららぁ~ヨゴレがついちゃったなぁ。あったらしい制服なのに」 ほんの少し頭上から降り注ぐ、からかいを含んだ声。 金髪カラコン、だらしなく半開のシャツに、腰パン状態な二人組に両腕を掴まれたまま、少年…神威恭弥は、がっくりとうなだれた。 抵抗しようがない。恭弥が、160センチの将来の成長が危ぶまれる薄っぺらい体なのに対して、二人は180センチくらいある。 対して恭弥は、いいとこの学校!ってのを全身で表してそうな、上品な光沢のあるロイヤルブルーのジャケットに、きっちり締められた黒いネクタイ。 見苦しくなく履きこなされたグレーのパンツ。 多分、二人組のヤンキー風味にしたら、恭弥は格好のカモに違いない。 「離せよっ」 一応勇ましく抵抗の声は上げてみたが、恭弥の髪と同系色の色素が薄い瞳に滲んでるのは、苛立ち三割、怯えが七割。 「はぁ?人にぶつかっといて、まずは、ゴメンナサイでしょう?口の効き方知らねーの?」 「とりあえず、ウチら入学式なのに制服汚されて、ベンショーしてもらわなきゃだからさぁ、財布貸して?」 にっこり微笑みながらも、全然笑ってない瞳で右側が顔をのぞき込んできた。 ‥‥中学時代、こーゆータイプが怖くて、苦手で、ひたすらかかわらいようにしてきた。 (ガンジーじゃないけど 俺は非暴力主義なんだよ) 恭弥は腹の中で毒づく。 なんだって、入学式の日に。 中学時代から避けてきたようなヤンキー風味に再会して、脅されてるんだ。
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