桜の楽しみは酒の味わかってからだが桜見てねぇ

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「汚れてなんか‥ない‥と思いま‥」 語尾が小さくなるのは、言い返した途端に『あぁ?』と相手の目が眇められたからで。 「お前ン家、オヤジが大学キョージュだろ?金持ってっから、そんなセレビーな私立行けんだろーが。おとなしく金だせっつーの」 …かつあげキター…とかふざけている場合ではない。 いくら、ジタバタしても力の差は歴然として事態は拓けそうにないし、明日からの生活費とか考えないようにして、おとなしく財布渡しちゃおうかなぁ…と観念した時。 「おいおい、最近のガキは物騒だなぁ」 ‥間延びした声がした。 それは、満開の桜の下。 不意に現れた人影は、思わず息が止まりそうになるくらい… 「スゴっ‥」 危機的状況とかいうことも忘れて、恭弥は呟く。 両側のヤンキー風味の手から力が抜け、両腕が解放された。 それでも、[今のウチにカバン拾って、とっとと逃げなくちゃ]とか、[入学式遅刻したら困るなぁ]とか、そんなこと考えられないくらい。 他のことなんか何も考えられないくらい …突然現れた男は、綺麗だった。 …漆黒の艶やかな髪からのぞく瞳は闇そのものの色で。 整いすぎて冷たく玲瓏な美貌コノ世ノモノトハ思エナイ]。 …と思ったのも束の間。 ハイ!時間切れ!みたいに、魔法が解けたように男の目が死んだ魚の目に変わる。 「え‥」 こうなっては超絶美形も形無し、単なるヤサ男にしか見えない。 恭弥が絶句してるのを尻目に、ヤンキー風味の方が立ち直りが早かった。 二人いたら、現実への対応も二倍早いのかも知れない。 「なンだ。お前」 凄んでみせるが、男はヤンキー風味よりさらに背が高い。 ほっそりとした体つきと、『まじめに働いてるオトナ』には見えない風貌の男は、まぁまぁ…と、ひらひらと右手を振って見せた。 「ガキの本分は、勉強とエロスだ。とっととガッコー行け。こういうオトナになりたかぁねぇだろ」 「わけわかンねぇこと言ってンじゃねーよ」 ヤンキー風味の一人が右の拳を振り上げて向かって行った瞬間、軽く男は身をかわしてヤンキー風味のその手を握り込んだ。 柔らかく握ったとしか見えないのに 「いでででっ」 ヤンキー風味が涙目で悲鳴を上げる。 身をよじって逃げようとするが、握られた拳は全くふりほどけそうにない。 (この人、強い‥全然ダメそうな大人に見えるけど)
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