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恭弥が魅入っていると、二人目のヤンキー風味が、ノーガードになった男の左半身めがけて突っ込んでいった。
その手に煌めいていたのは、鋭利なナイフ。
「あぶなっ‥」
恭弥が叫ぶより早く。
男の左手がナイフを握った拳に降り降ろされた。
痺れるような痛みがその腕に走り、ヤンキー風味の手からナイフがこぼれ落ちる。
同時に、ヤンキー二号を掴んでいた右手を軽くひねり、ポイッと地面へその体を投げ出す。
「‥まだやる?」
ニイッと唇の端だけつり上げる笑みを男が浮かべた。
その瞳は壮絶に艶めかしく瞬く。
「‥っうぜっ!シネ」
捨て台詞を吐きながら、ヤンキー風味が這々の体で逃げ去っていく。
その姿を、やれやれ‥と肩をすくめて見送りながら、男が恭弥の方に向き直った。
もうシリアスな表情は浮かんでいず、もしかしたら、基本的に美形でも長時間それを保つことはできないようだ。
典型的ダメ大人にしか見えない。
「あの‥助けてくれてありがとうございました」
少しはにかんだ笑みを浮かべて、恭弥がお辞儀をする。
「あぁ?気にすんなまぁ どうしても礼したいなら、お前なりの誠意っつーの?まぁ‥遠回しに言うと‥謝礼?金?」
「‥全然遠回しに言ってません」
恭弥が呆れた視線を向ける。
助けてもらったお礼なんか言うんじゃなかった。
高校生にたかるなんて、情けないオトナにも程がある。
かたっくるしい黒いスーツにネクタイなんか締めてるが、絶対普通のサラリーマンには見えない。
グッチかPRADAのスーツのモデルみたいで、現実感がない。
「俺‥待ち合わせしてるから行かないと。ホント、助けてくれてありがとうございました」
もっかい、ぺこんと頭下げて立ち去ろうとした恭弥に、まぁ待てよ…と男が緩やかに微笑んだ。
「神威恭弥。
皇学園一年、父親がギリシア神話学の教授で、この春からイギリスで教鞭取るため母親がついてくから、お前は高校入学と共に学園の寮生活開始‥だろ?」
「な‥なんでそれ知って‥」
ゆるゆると笑う男の上に、舞台効果満点とばかりに桜吹雪が風に舞う。
男の言うことに間違いはない。
恭弥の父親は世界的に有名なギリシア神話の教授だし(だからと言って、恭弥の学力が優れてるかと言えば、今の所結果は出てない。
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