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その刹那、乙女の素早い突進から、龍馬の頭部へと痛烈な一撃が見舞われた。
途端、バチンッと乾いた竹刀の音が響き渡る。
「いっ、痛いがぜよ!」
「何を言いゆうがじゃ!武士の子がこればぁの事で情けない!!」
龍馬の悲痛な叫びにも、乙女は全く容赦がない。
「痛いがは痛いがじゃ!」
もう、龍馬は半泣きである。
「そがな事ゆうても、手加減はせんきにの!」
乙女は、たるみすぎて見兼ねた弟を剣術をもって鍛え直そうと言うのだ。
「たんま!たんまじゃ、姉やん」
「待っちゃあせんぞ!龍馬!!」
弟の涙の懇願にも、問答無用で乙女は竹刀を打ち込む。
「ぎゃひぃぃぃぃぃぃっ!!」
後に“坂本のお仁王様”と徒名される乙女のしごきに龍馬の叫び声が天高くこだまして行く。
幕末の時代を駆け抜けて行く坂本龍馬。その英傑のまだまだ多難な十歳の頃であった──
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