龍馬の将来

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 この日、龍馬は珍しく落ち込んでいた。連日のように続くオネショが原因で、姉の乙女(とめ)より激しい雷を頂戴したのだ。  庭先にはためく寝小便まみれの布団を眺め、龍馬は縁側に佇んでいた。さしもの彼も、今回ばかりはかなりの落ち込みようだ。 「叔父上、どういたが?」  しょんぼりと肩を落とし、うなだれる龍馬に春猪が不思議そうに話し掛ける。 「春猪、アシはちっくと旅に出て来るき…」  遠く空の彼方を見詰め、龍馬は力なくつぶやく。消え入りたい、そんな気持ちで一杯だった。 「いってらっちゃい!」  当然だが、まだ歳幼い春猪には龍馬が口にする言葉の意味など分からない。覇気のない叔父の後ろ姿を只々見送るだけだった。 「はへぇ…」  気晴らしに表へと出てみたものの、溜め息が出るばかりで気分は一向に晴れない。鬱々とした気分のまま、龍馬は本丁筋をとぼとぼ歩いて行く。 「どういた?龍馬…」  うつむき加減に歩く龍馬の背へ不意に声が飛ぶ。誰かと思い振り返ると、スラリ背筋の通った少年が立っていた。龍馬もよく知る、武市半平太だった。
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