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半平太は、長岡郡仁井田郷吹井村出身で身分は白札である。九歳の頃より城下に出て、叔母の嫁ぎ先に寄宿し文武に励む毎日を送っていた。歳は龍馬より六つ上で、すでに元服も済ませている。
そんな半平太を龍馬は兄のように慕い、また半平太は龍馬を弟のように可愛がった。
「まぁた、お乙女さんに叱られたがやろ…」
苦笑まじりに半平太が問い掛けると、龍馬はうなだれたまま、その質問に答える。
「今朝もよばれ(寝小便)を垂れたき、姉やんにこじゃんと(かなり)叱られたがよ…」
他人からすれば大した事のない悩みでも、龍馬にとっては一大事だった。それを慮って、半平太は優しく一言添える。
「その内せんようになるき、あんまり気にしぃなや…」
慰めるように龍馬の肩にそっと手を添え、半平太はニッコリと笑った。
「なりゆうかのぉ…?」
「すんぐに、よばれらぁ垂れんようになるろう!」
半平太の慰めが、今の龍馬にはかえってつらい。
「あぁ、まっこと、そうなるろうかのぉ…」
天を仰ぐ龍馬、情けなさで泣き出したい気分だった。いつもなら何事も笑って吹き飛ばすマイペースな龍馬なのだが、今日の乙女の落雷は相当に堪えたらしい。
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