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通りを外れ、そのまま進むと、あくびが出るくらいのどかな風景が広がりをみせる。そこから程近い鏡川も、ゆらゆらと水面をたゆたわせキラキラと輝いていた。
「武市さん、何処まで行くが?」
尋ねる龍馬の手を引き、半平太はさらに先を進む。川原まで辿り着くと、頃合いのいい岩場を見付け、そこでようやく半平太は腰を下ろした。
「龍馬も、ここに座りや!」
言われるまま、龍馬も半平太の隣にゆっくりと腰を下ろす。川のせせらぎが、何とも耳心地のよい調べを奏でている。
「龍馬、いつまでクヨクヨしちゅう…おまんは侍の子やろう?」
──と、半平太は先程購入した饅頭を懐から取り出し、それをおもむろに龍馬へと差し出す。
「食べても…えいが?」
目の前の饅頭を見詰め、龍馬は遠慮がちに尋ねる。
「大里屋の饅頭は、おまんの好物やろう?それでも食うて、早よう元気を出しぃや」
「武市さん、ありがとう…」
饅頭を受け取ると、龍馬はそれを一口頬張った。
「──ウハッ!?大里屋の饅頭は、げにまっこと(実に本当に)美味いぜよ!こりゃあ堪まるか!!」
奇声を上げ喜ぶ龍馬に、半平太は戸惑いの色を隠せない。
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