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息を切らしている様子から、龍馬を必死に探し回っていた事がうかがえる。
「もう、心配したがですよ!春猪お嬢さんに『旅に出る』ち言いゆうき…」
やべの安堵した顔に龍馬は少々の罪悪感を覚えた。
「おやべさん…ごめんなさい」
「えいがですよ。坊さんが無事やっただけで…」
そう言って、優しくやべが抱き締める。その温もりが龍馬の心を包み込むように癒す。
「龍馬、はや去ぬる(もう帰る)ぞね!」
ホッとしたのも束の間、乙女の声に龍馬は心臓が飛び出す程の驚きをみせる。
「半平太様、数馬様、これにて失礼致します」
やべが二人に深々と頭を下げると、乙女は龍馬の手を引き、そそくさと歩き出した。
「た、武市さん、数馬…ほほ、ほんだらの…」
まるで、屠殺場に向かう牛のように連れて行かれる龍馬、半平太と数馬は、気の毒そうにこれを見送る事しか出来なかった。
未だ乙女の表情は険しいままである。龍馬はこの後、自分の身に降り注ぐであろう災難に気が重くなる一方だった。
ところが、しばらく先を進み、半平太達の姿が見えなくなったの見計らったように、やべがクスクスと笑い出す。
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