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「実はお嬢さん…坊さんがいなくなって、しょう心配なさってたがですよ…」
途端、乙女の顔が上気したように真っ赤に染まる。
「おやべさん、それは言わない約束ぞね!!」
慌てる乙女だったが、もう後の祭りだ。龍馬が不思議そうに彼女の顔をのぞき込んでいた。
「どういてなが?」
曇りのない瞳で龍馬が尋ねる。すると乙女は、恥ずかしさのあまり、とっさに龍馬から顔を背けてしまう。
「お嬢さんは、坊さんがお屋敷を飛び出して、何処か遠くへ行かれたち思うたがですよ」
やべが、そっと耳打ちをする。似王様の如く厳しい姉の、意外な一面を龍馬は知った。
「お乙女姉やん…」
「な、何ぞね…!?」
含みのある笑みを浮かべ、龍馬が見ている。
「ありがとう…」
「あ、ありがとうじゃないろう!まずは謝るがが先ぞね…」
思いがけない龍馬の言葉に、乙女は思わず心にもない一言を口走った。
「龍馬、覚悟しぃや!帰ったら、さっそく剣術の稽古ぞね!!」
そして、いつものように威勢のいい言葉を続ける。それが、乙女の照れ隠しである事が、龍馬にもありありと分かった。
さて、数日が過ぎ、龍馬の“家出騒動”は仲間内の知るところとなっていた。
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