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長男の権平が不思議そうに眉をひそめる。
「こ、こればぁ妙ちくりんな赤ん坊は、まっこと初めてぞね」
長女の千鶴(ちづ)が言葉を続けると、次女の栄と三女の乙女もそれにうなずく。
家族揃って、只々唖然とするばかりだった。
「どういて、こがな風な子が産まれて来たがやろう?」
長兵衛は溜め息をつき、落胆の色合いを露わにする。弱々しく泣き続けるこの男児に、家族の誰しもがその行く末を案じずにはいられなかった。
「この子は、一体どうなるろう…」
まじまじと我が子を見詰めながら、長兵衛がつぶやく。
しかし、長兵衛や家族の嘆きをよそに、母の幸だけはこの弱々しい我が子に大いなる期待を寄せていた。
まだ身籠っていた時分の事、夢うつつの中、自身のお腹に龍と馬が入って来たのだと云う。
「おまんは龍の如く、駿馬の如く羽ばたいて、いつか大事をなすがです!」
幸は、生まれたばかりの我が子を抱き上げ、語り掛けるように優しく言い放った。
男児には、母の大望が込められ『龍馬直陰』と名付けられた。
そして、時は流れ──
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