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「姉やん…痛い、痛いちや!」
小手から頭部へと、流れるような打ち込みが決まった。
「おまんはどういて、そうすんぐに泣き言らぁ言いゆうがじゃ」
泣き顔で激痛を訴える龍馬を、乙女は厳しく一蹴する。齢十一の龍馬にとって、今の姉はまさしく仁王様そのものであった。
「ね、姉やんは、まっこと坂本のお仁王様ぜよ!」
「な、何じゃと!?」
龍馬の言葉に、乙女は一瞬たじろぐ。昨日の家出騒動の翌日だ。彼女が動じてしまうのも、無理からぬ事である。
「これ、何をそんなに騒いじゅうがじゃ!?」
騒々しいやり取りを聞き付け、父の八平が縁側より二人に声を掛ける。
「父上、龍馬の奴が泣き言ばっかり言いゆうがです。厳しく叱ってやってつかぁさい!」
乙女の物言いに、八平は諭すような言葉を返す。
「乙女、龍馬はまだ十一やぞ!もうちっくと分かり易く、優しく教えちゃりや!」
父の言葉を聞き、龍馬は「それ見た事か」と言わんばかりの表情で乙女の顔色をうかがう。ところが八平は、そんな息子の様を見逃さずにいた。
「龍馬、おまんもおまんぜよ!侍の子ぉが、すんぐに弱音を吐いたらいかんちや!」
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