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今度は龍馬が注意を受け、乙女がしたり顔である。似た者同士の姉弟に、八平も呆れるばかりだ。
「えいか二人共!何事も、本分を忘れてはいかんちや。それだけは覚えて置くがぜよ!」
乙女はともかく、龍馬は相変わらず妙に間延びした口調で「はぁい!」と答える。八平は、そんな息子が何より心配で堪らない。
「龍馬、おまんはまっこと分かっちゅうがやろうのぉ…?」
「はぁい!」
再び、気の抜けたような返事を繰り返す龍馬に、八平は限りなく不安が募る。
「もうえい!えいちや…乙女よ、剣術も学問も、丁寧にしっかりと龍馬に教えちゃりや…」
龍馬にとくとくと説明しても、これではまるで、暖簾に腕押し、豆腐に鎹(かすがい)、糠(ぬか)に釘だ。あまりの手応えのなさに八平は落胆し、目眩さえ覚える。
(龍馬は、坂本家の廃れ者になってしまうがやろうか…)
そんな事が、八平の脳裏をよぎった。龍馬の将来に大きな期待を寄せる幸には、決して口外はできない。
「龍馬、乙女の言いゆう事、きちんと聞くがぜよ!」
そう念を押し、八平は自室へと戻った。何とも言えない気まずい空気が漂う。
「父上はあぁ言うたけんど、しょう落胆しちゅうぞ!」
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