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龍馬には三人の姉がいる。長女の千鶴(ちづ)、次女の栄、そして三女の乙女(とめ)がそれだ。
上の二人の姉は、龍馬が物心付いた頃にはすでに他家へと嫁いでいた。
ところが、その内の一人である栄が、嫁ぎ先の柴田家より離縁され出戻りとなった。子供を授からなかった為、夫である柴田作衛門の両親から不興を買ったのだ。
出戻りと言う肩身が狭い立場の為、栄は家族にも滅多に姿を見せる事なく、自分の部屋に籠り切りったままの毎日を送っていた。
父の八平も、娘を不憫に思い慰めたが「子が出来なかった自分の責任」と、栄は自嘲めいた笑みをただ浮かべるのみだった。
坂本家にも微妙な空気が漂い、何となくギクシャクとした日々が続いた。
龍馬にとっても年が離れ、馴染みの薄い姉である。栄とどう接してよいのか分からない。切っ掛けが掴めないのだ。
そんなある日──
その日は天気もよく、暖かい陽射しの差す、小春日和ののどかな一日であった。
龍馬は縁側で陽射しに抱かれ、柱にもたれ掛かりながら、まどろみに身を委ねていた。
「龍馬さん、こがな所で寝ちゅうと風邪を引くがですよ」
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