二番目の姉

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 不意に声を掛けられ、反射的に龍馬が身を起こす。声の主を探し辺りを見回してみると、庭を挟む反対側の縁側で栄が優しくほほえんでいる。 「あぁ、姉上…」  龍馬にとって、思い掛けない好機であった。今まで、会話をする糸口すら掴めずにいた栄から話し掛けて来たのだ。 「あ、あの…」  ところが、とっさの事に龍馬は機転が利かず、気の利いた台詞の一つも思い浮かばない。 「ん?どういたが」  ──と、栄が問い掛けるも、龍馬は緊張のあまり、どぎまぎして答えられない。そんな戸惑う龍馬に、栄がゆっくりと近付く。 「ほらほら、もうだきな(だらしない)ですよ龍馬さん」  くすりと笑い、龍馬の隣に腰を下ろすと、栄は着物の袖でそっと彼の口許を拭った。 「んん…」  寝惚けていた為、龍馬は口からヨダレを垂らしていたのだ。とんだ醜態を晒し、恥ずかしさが込み上げて来るばかりであった。 「ふふふ…龍馬さんは、相変わらずながね」  そう言葉にし、栄は再び優しくほほえんでみせる。  龍馬の幼い頃を知っている栄に対し、この姉の事を龍馬はほとんど知らない。彼が物心付いて間もない頃、栄はすでに柴田家へと嫁いでいたのだから、当然と言えば当然だ。
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