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何処かぼんやりとした“ゆる~い”雰囲気の少年が、高知城下の本丁筋をまるで風にでも吹かれているかのように、のんびりと歩いていた。
その少年、髪はボサボサにして髷を適当に結い上げ、着衣もだらしなく乱れたままである。おまけに、鼻まで垂らしているのだから始末に悪い。
一応、二本を差し、武士の身分である事はうかがえるのだが、何とも冴えない風体だ。
「ありゃあ、坂本の次男坊ちや。まぁた、よばれ(寝小便)を垂れたっちゅう話ぜよ!」
「ほれ、今も鼻を垂らして、みっともないぞね」
「あれでも、武士の子ゆうがかねぇ…」
「ありゃあ、武士じゃないろう!町人郷士ぜよ」
町の人々が、次々に少年の噂を口にする。そのどれもが、失笑まじりの好意的でないものばかりだった。
しかし、当の本人はそんな噂など全く気にした様子もなく、飄々と往来を闊歩する。
その手の噂に疎いのか、それとも生来から来る鈍感ゆえなのか、我意に介せずと言った素振りで鼻をほじりながら、何とも呑気なものだ。
「龍馬、おまん今まで何処に行っちょったがぜよ?」
「まっことです坊(ぼん)さん、心配しちょったがですよ」
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