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「さきちゃん。10こかぞえたら、すたーとだよ!」
「うん。わかった!」
「さきは10までかぞえらんないかもよ」
「もうおぼえたもん!」
「じゃあ、はじめるぞ。いそげー!」
「いち、にっ、さんっ、よんっ、ごっ、ろーく、なーな、はーち、きゅう……じゅう!」
目を覆っていた掌を、そっと顔から降ろし、それでもなお強く閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。
私は、いつもこの瞬間が、一番怖かった。
目を閉じる前の世界と、
開いた後の世界が、
どこかで違っちゃっているような気がしていて。
私が目を閉じている間に、皆が私のことを忘れてしまい、どこかに、私抜きで遊びに行ってしまうんじゃないか、って。
だから、心の準備をしながら、少しづつ、少しづつ、開いてゆくの。
海やプールに入るとき、入念に準備体操するみたいに。
静かに、静かに、現実を、驚かさないように。
それから、おまじない。
ポケットの中の小石を探す。
目を閉じる前に、仕舞っておいた小石。
その小石があれば、私は、さっきまでの世界に、ちゃんと居る。
一度使った小石は、二度と使えない、って、決まっていた。
私の中で、私が勝手に決めたルールだったけれど、そう、決まっていたの。
そして、小石に、ばいばいって言って、お別れして。
また、さっきまでの世界に、戻っていくの。
……私は、鬼。
……私は、皆を、見つけるの。
……見つけたいのに……
でも、何故か、鬼になったときの記憶しかないわ。
しかも、見つけたときの記憶がないの。
……小さい頃の私って、随分、どんくさかったのかなぁ。
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